『花しぐれ 御薬園同心 水上草介』梶よう子|刊行記念特別インタビュー|集英社 WEB文芸 RENZABURO レンザブロー
定価:1,850円(本体)+税 5月26日発売江戸時代の幕府の薬草園、小石川御薬園(こいしかわおやくえん)(現・小石川植物園)で働く同心・水上草介は、ひょろりとした体軀から「水草」の綽名(あだな)で呼ばれている。そんな草介の元には、周囲の人々からの多様な悩みが相談として持ち込まれる──。梶よう子さんの『花しぐれ 御薬園同心 水上草介』は、さまざまな植物を題材に、そこから織りなされる人間模様を鮮やかに描いた連作短編シリーズの最新刊です。『柿のへた』『桃のひこばえ』に続く三部作の完結編ともなる本作。刊行にあたり、梶さんにシリーズや本作に込めた思いをうかがいました。
聞き手・構成=小元佳津江
──御薬園同心の水上草介を主人公としたシリーズ、待望の三作目が刊行されます。まず、改めて本シリーズで御薬園を舞台にされた理由から、おうかがいできますでしょうか。
私のデビュー作は、『一朝の夢』という植物の朝顔を扱ったもので、植物をテーマにもう一作できないかなと思い、いろいろ探していたんです。御薬園というのは幕府が人々の薬となる植物を育てる目的で設置したものですが、気になって調べたところ、一番大きな御薬園が小石川にあり、そこにも同心がいたんだと知ってちょっと驚きまして。同心にもいろいろいるんだなあ、「御薬園同心」って面白いかも、と思ったのが最初のきっかけでした。
御薬園は各藩にもあり、薬の研究や精製を担っていました。江戸時代って生薬屋(きぐすりや)や薬種問屋など薬屋さんがたくさんあり、有名な家伝薬も売られていましたが、薬を勝手につくり、人死にを出すようなこともあったんです。そこで幕府は、偽薬や(高麗)人参の偽物を販売することに厳しい罰則を与えていました。御薬園では薬をつくるだけでなく、そのレシピを生薬屋や薬種問屋にも教えていたんです。当時、医師の存在ももちろん重要ですが、薬というものの役割が非常に大きかった。研究機関でありながら病院的な面も兼ね備えていた御薬園という施設自体に魅力を感じたことも、ここを舞台に選んだ理由でした。
──そんな御薬園の同心を務める水上草介は、周囲から「水草」と綽名されるもまったく気に留めない、おっとりとした愛すべきキャラクターですね。
実は当初、植物が好きだけれどやたら剣術が強いという設定も考えたんですが、よく考えると御薬園の同心には剣を振るう場所
www.bungei.shueisha.co.jp
0コメント